8月18日15時。
神楽のメインイベント『岩戸開き』が終わった後も
しばらく神楽を観てから夕飯の炊き事(ご飯作る係)へ。
公民館の調理室の勝手口を開けると
誰もいない…あ、いた。
みんな、奥の上がりでおやつを食べています。
「三味線も食べ!」
漁師の民ちゃんが声をかけてくれました。
つい2日前までは
『三味線の先生、先生も食べにゃ』だったのが。
仲間に入れていただけた!と思った瞬間のひとつでした。
聞くと、夕飯の準備は大方済んでいるらしく。
後は、直前にやらねばならないことだらけだそうで。
それまでは体力を温存しておやつの時間。
いろんな話が飛び交う中、話題の中心はやはり16日の船入り。
「あー、ようやったようやった」
「そやったねぇ、よう声がでとった!」
誰の話かじっと聞いていると
どうやら、いつも魚を捌いてくれる、いくちゃんというオニイサンの話らしく。
そのいくちゃんが神舞の船上で歌を歌う係だったらしく。
その歌声が大きくよく出てたそうで。
「そりゃ、ゆみちゃんに"違う!違う!"って随分鍛えられてたし」
「そうなん、それで上手かった」
「ああ、上手かった上手かった」
「上手かったといえば、昔は誰々が上手かった」
「誰々って?」
「ほら、あっこのほれ、誰々の誰々」
「あー、あっこの、誰々の誰々」
「へえー!あっこの誰々の誰々!」
もう、ちんぷんかんぷんです。
でも、皆さんが記憶を擦り合わせて会話しているのを聞いていると
わからないながらも何だかとても楽しいのです。
そういえば、ゆみちゃんは盆踊りの時も歌ってた。
「あれはなんというんですかね」
「あー、ありゃ、ボンクドキ」
「ボンクドキ、ですか」
「ゆみちゃんだけですか」
「いやあ、としぼうが上手い」
「最近はよしぼうも歌うてるなあ」
「よしぼうはゆみちゃんの弟子じゃ」
「他には…」
「おらん」
「なんで…」
「なんでじゃろ」
わいわいしているうちに
いつの間にか普段の炊き事の大忙しになり。
かこちゃん、ようこさん。
炊き事をやっているうちに
みんなの顔と名前が少しずつ一致してくるのが嬉しく。
夕飯の炊き事の後は片付け係。
わいわいしているうちに片付けの時間になり。
わいわい要領よく片付けも終わり。
そして今夜は最後の夜だ。
もう一度、盆口説きが聴きたい。
「盆踊りやりますかね」「やるって言っとったよ」
公民館から急いで盆踊りの櫓へ向かうと
よしぼうが盆口説きを歌っています。
聴き続けて節がなんとなくわかってくると
今度は文句が気になってきます。
……………………
鈴木…もんど…侍…
アラマカショーイ
女房…二人の…子供…
ヨイヤサーノセーヨイヤサーノセ
なんじゃこりゃ。
新宿がどうの、とか言ってるな…。
祝島でいうところの新宿って、一体どこの新宿なんだ…。
よしぼうに変わってとしぼうが歌って
またよしぼうが歌って。
櫓近くの石垣に腰を下ろし、ICレコーダーで音を録っていると
えびす商店のさとしさんが
「恩田さんも踊らにゃぁ」「は、はい」
笑ってごまかします。
踊るのは、苦手だ。
しかし、しばらくすると、かこちゃんが
「踊る。踊るよ」と、手を引っ張ります。
これはもう逃れられません。
かこちゃんを手本に、うーん、うーん…
こう…こう…こう…あー…違う…
回りの人ももどかしいようで
「いやいや、左足が、こうじゃ」「左足が…こう…」
「いやいや、こう」
うーん、うーん…うーん!出来ない…
歌い終わったとしぼうさんも
「出来ちょる出来ちょる!」と励ましてくれつつ
「こうして、こうして、こう」「こうして…こうして…」
「いや、こうして、こうして、こう」
うーん、うーん…うーん!出来ない…
踊りながら、いや、踊れないながら
いつか歌ってみたいなぁ、盆口説き…
いつかどなたかに教えていただこう…
と思うのでした。
そして
あたたかい満月が櫓を照らしていたのでした。
(つづく)
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